時間〈とき〉ラボ運営事務局 さん
1949年、生産現場のコンサルティング活動を行っていた日本能率協会が、「時間もまた資源である」という考えのもと、戦後まもない日本で初めて“時間目盛り”を採用した手帳として「能率手帳」を発行しました。その後、人材育成支援事業、手帳事業、出版事業等の事業部門を集約し、1991年に日本能率協会から分離独立する形で㈱日本能率協会マネジメントセンター(略称:JMAM)が設立されました。
「#JMAM手帳を知る」では、手帳づくりの舞台裏を垣間見たり、歴史を振り返ったり……。社員すら知らない!?情報も盛り込みながらJMAMが手がけてきた手帳のあれこれを毎回いろんな角度からお伝えしていきます。
今回も「#14 藤原しおりさんと巡る手帳製本工場」に引き続き、紙や手帳、文房具好きな藤原しおりさんの工場見学の様子をお届けします!
前回は「折り」と「糸綴じ」の工程をご紹介しました。折り目部分の厚さ数ミリのところまで計算して作っていることを知った藤原さん、今回はどんな発見があるでしょうか?
▲今回は製本工程から仕上げの工程まで、手帳が完成するまでの様子をお届けします。
「ならし」で空気を抜かれた手帳たち。次はさらに強度を強めるための工程となります。糸でかがった冊子の一番前と一番後ろに、手帳の中身と内表紙をつなげる役割を担う厚めの紙を貼る「見返し貼り」と、背中に糊をつけ、百科事典などにも使われる寒冷紗(かんれいしゃ)と言われるテープを貼り付ける「背巻き」と言われる工程へと繋がります。手帳を1日何十回開いても壊れないよう強度を出すために行う工程なんです。
▲背中に糊が付けられて、そのまま寒冷紗がスーッと巻かれ、徐々に手帳の仕様になります(まだ表紙カバーは付けていません)
この工程は、ひとつのラインで完結させる設備と単体で行う設備があります。藤原さんが写真で見学されているのは、単体で動く設備。このときの糊の量も、その日の天気・気温・湿度によって調整していきます。
藤原さんがこの工程を見て「私ここの工程がすごく好きかも!もうすぐ手帳が出来上がるぞ!という気持ちになって、とてもワクワクする!」と話されていました。目がキラキラしていて、私たちまでうれしくなりました!
見学当日は、「見返し貼り」単体で行う設備も稼働していました。JMAM手帳のこだわりを知っていただいた藤原さんに「見返し貼り」の体験をしていただきましょう。
プロにやり方をレクチャーしてもらい・・・
冊子を手でゆっくりと重ねて機械に入れていきます。このときも空気が入らないように並行にして入れていきます。
ゆっくりと重ね、機械のスイッチをON。
見返し部分に使用される紙が出てきて・・・
折られた手帳の中身がすっぽり・・・
そして厚紙と手帳の中身の間に糊が塗られて、ペタリとくっつけます。
空気をきちんと抜いていたので、難なく完成しました!藤原さんが見返し貼りした手帳は、2023年4月始まり手帳の「NOLTY スコラ」。もしかしたら、これから店頭に並ぶスコラ手帳は藤原さんが手がけた一冊かもしれません。
「背巻き」の工程のあと、仕上げ断ちやしおり付けなどを経て表紙カバーをセットし完成!なのですが、今回は特別に能率手帳ゴールドや能率手帳など、一部の商品だけに行っている特別な工程「小口」に関する工程も、新寿堂が誇る推し工程ということで見学いただきました!
手垢などで段々と手帳の切断面(小口といいます)の紙が汚れてきてしまいます。保管されている手帳だと日焼けによって紙が変色してしまうことも。それを防ぐために施される「小口塗り」と「小口磨き」「金付け工程」を見学いただきました!
まずは能率手帳シリーズで施されている「小口塗り」と「小口磨き」について。最初に手帳の切断面(小口)に色付けをしていきます。能率手帳に塗る黒の色は墨。
全て人の手で塗っていきます。
初心者だと塗りムラなどが出てくるので、担当するには経験年数が必要とのこと。
使っているハケは塗る色によって使い分けています。
色々なハケを試した結果、熊の毛のハケが一番塗りやすく、紙との相性も良いそうです。
手触りはしなやかですが、少し硬め。
塗り終わったら、次は磨いてツヤを出していきます。
この機械、半世紀以上前の機械でとても珍しいんです。
瑪瑙(めのう)という石で磨いていくと艶感が出るんです!
▲磨く前
▲磨いた後
「塗っている時はその差に気づかないですが、磨かれたのを比較すると全然艶感が違いますね!磨いてよかった~!と思いますね」と藤原さん。
続いては、「能率手帳ゴールド」に施している「金付け」加工を見学いただきました。
▲藤原さんが持たれているのは金のロール。これだけでなんとすごい額なんです。本物の金を使っていることに驚かれていました。
金のロールを機械にセットして、きれいに伸ばしていきます。
伸ばしたら、小口の部分をグルッと金のシートで巻き・・・
完成!
この後、担当者がしっかり金付けされているかを1冊1冊めくりながら確かめていきます。
「触るのに緊張する」と言いながら、藤原さんも金の付き具合やページのめくり具合をチェック。
「ゴールドの手帳を持っているとテンションが上がりますね」と親指で触感を確かめたり、めくって紙の質感を確かめられたり、紙好きな藤原さんならではの楽しみ方をされていました。
能率手帳と能率手帳ゴールドはこの後、手作業で表紙カバーをセットする“手くるみ”という工程を経て、完成となります。
工場見学はここまで。工場見学後に藤原さんに感想などを伺いました。
手帳を使っている側としては、こんなにも人の手が関わっているの!という驚きが一番ありました!こんなに時代が進歩しているのに、メカニックにできないの!?と。
例えば、断裁の工程で、よく考えるとあの厚さで裁断すると確かにズレるなとわかるんです。でも、なぜか手帳を使う側になると忘れちゃうんですよね。折りの工程では、子供の頃に折り紙やノートを折っていて、何回も折ると確かに膨らむな~ってことも思い出しました。日頃、紙に接しているのに、ちゃんとそれが紙の特徴ということを把握していないことに気づきましたね。
気温や室温によって紙が伸びたり、反り返ったりすることも、お風呂で本を読むと紙がしわくちゃになるな~ってことも思い出しましたし、手帳を使う側になると忘れがちなので、この発見は忘れずに今後も手帳を使おうと思いましたね。
▲「手帳って完成されたカタチで手元に来るので忘れがちなのですが、多くの人が携わって手元に届くんだな」と、何回も手下の手帳を見ながらお話ししてくださいました。
手帳を使っているみなさんにお伝えしたいことは、この一冊の手帳にとても多くの人が携わって出来ているということ。それを知ってもらいたいし、多くの人の想いがこもっている手帳を使っているぞ!ということを誇りに思って欲しいなって思っています。きっと工場見学に来たら驚くと思います!まさかこんな多くの人たちが関わっているのか!?って!
▲1年間の使用に耐えられる強度を保ちながらも、書きやすいよう、きちんと開くように仕上げるために、いろんな人が工夫し、作っていることを思い出しながら感想を話してくださいました。
紙が大好きな藤原さん。お話ししながら、工場見学中にも、自然と手の甲で紙を撫でて触感などを確認されてました。手の甲は手のひらより油分などが少なく、直に紙の触感を感じることができるそうです。
▲手帳の話から自然と紙の話に。
JMAMの手帳には、シリーズによって5種類のオリジナル用紙を使い分けています。オリジナルの手帳専用紙は、二宮さんも開発に関わった一人。
紙の開発についての話でも盛り上がりました。
オリジナルの手帳専用紙については、また詳しくお伝えさせていただく予定ですので、お楽しみに!
工場内に掲げられている言葉「改善は 永遠にして 無限である」。今回見学された藤原さんはすごく印象に残ったそうです。「この言葉、いいですね~!手帳にピッタリの言葉だと思いますし、人生みたいですね」とお話ししてくださいました。
私たちが伝えたかったことが藤原さんに伝わっていて、とてもうれしかったです!
みなさんの時間〈とき〉を記していく大切な手帳というツールは、間違いがあっては決していけないもの。そのため、いかにミスをしなくなるか、いかにミスなくきれいに仕上げることができるか。その気持ちを新寿堂は何十年も前から大切にしてきました。時には機械を改造したり、作り方の流れを見直してみたり、質の高い製本をするにはどうしたらいいか、アイデアを出し合ったり。今までの熱意がこの13文字に込められています。
<編集後記>
全3回にわたってお届けした藤原しおりさんの工場見学レポート、いかがでしたでしょうか?今まで、ときラボではコラムやオンライン工場見学などで手帳づくりの裏側をお届けしてきましたが、今回は紙や手帳が大好きな藤原さんの視点を中心にお届けしてみました。メンバーのみなさんの視点にも近かったのではないでしょうか?
最後にもご紹介した「改善は 永遠にして 無限である」。この言葉に藤原さんは何度も感動されていました。手帳づくりだけでなく、ときラボに関しても「改善は 永遠にして 無限である」という言葉が当てはまるなと事務局一同、胸に刻みました。
感想やご質問などは、ぜひぜひコメントに投稿ください!メンバーのみなさんの感想やご質問内容を参考に企画を考えていけたらと思っています。よろしくお願いします。
―― 藤原しおりさんと巡る手帳製本工場シリーズ全3回掲載 ――
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