【株式会社PLUG 代表取締役社長 小川亮さん】手帳はその人の人生のデザインそのものです

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小川亮(おがわ まこと)

株式会社プラグ 代表取締役社長。1971年 東京生まれ。慶應義塾大学 環境情報学部卒業後、キッコーマン株式会社、慶應ビジネススクール(慶應義塾大学大学院 経営管理研究科)にてMBAを取得後、株式会社アイ・コーポレーションにてデザインビジネスを展開し、2014年より現職。2004年武蔵大学・2010〜2013年日本大学商学部非常勤講師、2007年 文部省学習指導要領協力者。セミナー、消費財メーカー、大学や商業高校などでの講演多数。

趣味:サーフィン、ピアノ、ギター、犬、ゴルフ、アメフト


時間に対する心構え

~時は命なり~


そもそも、時間を大切にするとはどういうことでしょうか。



よく「時は金なり」といいますよね? 時間というものはお金と同じ、またはお金を生み出す価値のあるものだという考え方です。でも私はかつて慶應ビジネススクールに通っていた頃に、卒業式で「時間は“命”なり」と教わりました。命は、誰にとっても有限です。例えば、こうしてインタビューを受ける間に、自分の命も相手の命も使っているんだと認識して、大切にしなければならないと思っています。

人は誰でもいつかは死を迎えますよね。死ぬ前の10分間と、今の10分間、同じ10分という時間であることに変わりはないんです。今の10分を無駄にしてしまったら、死ぬ前の10分にもっと言いたいことがあっても、それが言えないかもしれない──そしてそれは、相手の10分についても同じことです。そう考えれば、自分の時間も相手の時間も大切にしなければならないのは当然のことだと思います。


相手の時間を大切にするには、どうすればよいのでしょうか。


私はプレゼンテーションやセミナーを行うことが多いのですが、どちらの場合も1時間〜2時間程度かかりますから、それだけ多くの人の時間をいただくわけです。その時に、来て良かった、あの人の話を聞いて良かったと思っていただくことが大切です。では、そのためにはどうするか。

まずは、事前にどれだけ準備をしたかが重要になります。人に会って、その人の時間をいただく前に準備できることをして、相手の時間を無駄にしないことです。それからお礼の手紙を書くことも大切です。それは文面の問題ではなく、感謝の気持ちをこめて「書くという時間を捧げる」から相手を大切に想っていることが伝わるのです。また、ビジネスにおいては利益の源泉は時間ですから、どれだけ早く商品やサービスを提供できるかも重要です。

これらのことは全て、信頼に結びつきます。ビジネスは、信頼関係なしに成立しません。相手は「この人はどれだけ時間を大切にする人なのか」というところを見て、信頼に足る人物なのかを判断しているのだと思います。


時間をどう大切に使うか ~心がけている6つのこと~


実際に、どのように時間を管理していますか。


私はいろいろな仕事をしているので、時間の管理が欠かせません。私にはまず経営者としての仕事があります。一口に経営者の仕事と言っても、事業戦略の立案から社員の体調管理まで、いろいろな仕事があります。そしてもう一つ、マーケティングのプロとしての仕事があります。加えて、本を書く仕事や講演の仕事もありますし、その他にもマーケティングを極めるための博士課程で研究をする時間や、文科省の学習指導要領の作成に関わる時間も必要です。かなり忙しくしているのは事実で、限られた時間をどう使うか、次のようなことを心がけています。


① 人にいただいた時間を大切にする

これは先ほども述べたように、人と何かをする際には相手の時間をいただくのだということを忘れないようにしています。


② できるだけ定期で埋めない

定例の打ち合わせなどを入れると、それだけで時間をかなり割くことになってしまいます。そもそも会議などは経営者がいなくても回るようにすべきですから、私は人に任せられるところは極力任せて、定期の予定は入れないようにしています。


③ いったん忘れる時間を大切にする

これはデザインをするときに大事なのですが、考えたことを一度忘れて無意識のレベルに持っていきアイデアを寝かせると、次にアイデアを思い出した時に考えがうまくまとまっているということがよくあります。ですから、それを意図的に行うようにしています。


④ 求められたら一生懸命応える

どんなに忙しくても、人にお願いされたら、時間を割いて一生懸命応えるようにしています。人に求められることなどそうはないのですから。


⑤ あいまいさを残しておく

自分で決めた時間が、必要以上に自分を拘束してしまうということがあります。例えば、自分で締め切りを決めることは大切ですが、それに縛られすぎないようにする。本当は、あと少し時間があればもっと良いものができるかもしれないからです。物事は一定のリズムで進むのではなく、あいまいなまま進んでいたものがある日突然形になり、一気にゴールするということもよくあります。ですから、あえてあいまいなところを残しておくことも、実は重要だと思っています。


⑥ 資産を貯める時間を必ずつくる

情報や経験の資産をいかに貯めるかを心がけています。勉強会に参加したり、読書をすることも大事ですが、私の場合は「自分から仕掛けて、人が集まる場をつくってしまう」ということを実践しています。すると、たとえ自分の専門分野でなくとも、自分よりも詳しい人たちが集まり人脈ができます。今度、ある学会でデザイン思考についての委員会を立ち上げるのも、そんな発想からですね。勉強会に参加するだけでなく、自分が興味を持ったテーマで勉強会を自ら開催してみてはどうでしょうか。


時間をどう見せるか

~忙しそうに 見せない~


時間をうまく使うコツを、教えて下さい。



先ほどの心構えの「あいまいさを残しておく」にも通じることですが、忙しそうにしないことだと思います。自分一人で生きているのではなく、誰かと関わって時間を共有している以上、自分自身が時間をどう使うかも大事ですが、周りに「どう見せるか」がとても大事だと思っています。自分一人でコントロールできる時間は実は非常に少ないので、それであれば相手にどう見せるかも含めて大きな枠でコントロールするという考えです。

例えば、「忙しいですよね?」と言われてはダメです。それでは自分のチャンスを失っているのと同じで、声をかけてもらえなくなります。他者からは、暇そうに見えても、忙しそうに見えてもダメなんです。


具体的には、どのように見せているのですか。


私の場合は、経営者としての時間の使い方をどう見せるか考えて行動しています。本当は忙しくても、社内をゆっくり歩きながら、社員の顔や部屋の隅々まで見るんです。ゆったり見せることで社内の雰囲気を和らげ、相談しやすいムードをつくるようにしています。なんでも自分でやって、周りからも忙しそうだと思われる“飛び回り社長”には限界があると思っています。


デザイナーの思考を真似しよう ~ラウンドモデルと?~


デザイナーは、時間をどう捉えているのでしょうか。


その前に、デザイナーの考え方についてご説明します。例えば、コップというものは、どこからがコップで、どこからが皿なのでしょうか? 2つを分けるものは深さの違いですか? その境界線はどこにあるのでしょうか? なかなか難しいと思うのですが、そうしたことを考え、形にしていくのがデザインです。

デザイナーの考え方は次の3つが基本です。

・人間中心(人を見て、課題や価値を発見する)

・共創(多様な価値を持つ人と、チームで仕事を進める)

・非線形(プロセスをさかのぼってもOK)

最後の非線形という考え方が、デザイナーの時間の捉え方に関係してきます。


非線形という考え方を、詳しく教えてください。


プロセスをさかのぼってよい非線形は、デザイン思考でいう「ラウンドモデル」とでも言うべき、サイクル型の考え方にあたります。これまでの開発モデルは直線的に進める「リニアモデル」ですが、デザイン思考は、「ラウンドモデル」というべき丸型の開発モデルです。開発途中に新しい発見があったり、失敗したりしたら前のステップに戻っても良い、というステップバックを許している点に特徴があります。

例えば、「来年に向けてチューハイの新しいフレーバーをつくろう」というプロジェクトならば、未来を見て直線的に進めるリニアモデルで考えていけばよいのです。しかし、「まったく新しい何かをつくろう」ということであれば、途中で引き返したり、方向転換することもよしとしなければなりません。この場合は、現場での発見をフィードバックするサイクル型の考え方が向いています。

これからのデザインや商品開発はリニアモデルだけではダメで、サイクル型の考え方が必ず必要となります。観察、アイデア、試作を繰り返すデザイナーの仕事は、PDCAの繰り返しです。その意味では、デザイナーの時間に対する考え方は、多くのビジネス・パーソンとも共通するものではないでしょうか。


時間を可視化する手帳 ~手帳で人生をデザインする~


時間を管理するツールとしては、何を使っていますか。


スマートフォンと手帳です。スマートフォンは、主にグループウェアでスケジュール管理に使っています。手帳は、もっと自由に使っています。スケジュールが立て込んできたら手帳に書き写して、眺めるんです。そして1カ月後をイメージしてみたり……書き写して、考えることが大切なんです。それによって時間を可視化し、先を思い描くことができます。


手帳によって、時間をデザインしているということでしょうか。


そうですね。時間を可視化するツールが手帳ですから、言い換えれば手帳はその人の人生のデザインそのものだということができるでしょう。

例えば、自分の手帳をデザイナーの視点で見直してみてください。手帳の“左右対称性”はどうでしょうか? 左右対称なデザインは調和、バランス、安定、安心、権威などを表します。非対称なデザインは、アクティブ、新鮮といったイメージを与えます。手帳の“ホワイトスペース”はどうでしょうか? ホワイトスペースは、優雅さ、洗練さ、メリハリを与えます。

デザイナーの視点から過去の手帳を見直すことでこれまでの人生のデザインが見えてくると思いますし、左右対称性やホワイトスペースを意識しながら手帳を使っていくことで、これからの自分をデザインすることも可能だと思います。 冒頭に述べたように、時間は有限です。貴重な時間をうまく使うためにデザイン思考を役立てていただければ、とても嬉しく思います。


※この記事は【時間デザイン研究所】に掲載されていた記事を転載しています。内容は掲載当時のものです。


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