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「すべき」を捨てて「心地よさ」をつづる。編集者が教える、心を守る手帳術

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「わたしの時間〈とき〉デザイン」では、時間〈とき〉をデザインしている方の取り組みや考え方、ライフスタイルの「Myルール」などを紹介します。


デコレーションや付箋で整えられた、開くのがワクワクするようなかわいいノート術。そんな素敵な「手帳ライフ」に憧れて真似してみたものの、いつのまにか「きれいに書かかなければ」という義務感に縛られ、もどかしさを感じたことはありませんか。


「足す」工夫に目を向けがちな手帳の世界で、手帳歴20年の編集者・大木春菜さんがたどり着いたのは、今の自分に合わないものを手放す「引き算」の視点でした。


今回は、手帳を人生の味方にするために大木さんが潔く手放したこと、そして自分らしく毎日を楽しむための「せいかつ編集」のヒントを伺いました。


■大木春菜(おおき・はるな)

愛媛県大洲市出身。地元の出版社で編集者、ウェブ制作会社でディレクターを務めた後、フリーランスとして独立。2019年、夫とともに株式会社せいかつ編集室を立ち上げる。長年の取材経験を生かし、企業や個人の思いを言語化する「顧問編集者」として活動する傍ら、手帳を「せいかつを編集するアイテム」として活用するメソッドをYouTubeや講演で発信している。2019年からは手帳愛好家のコミュニティを主宰するなど、手帳を通じた自分らしい生き方の提案を続けている。



手帳術を「断捨離」して見えてきたもの 


▲家計簿、ガントチャート、トラッカーなど試行錯誤の跡が刻まれた過去の手帳たち


――大木さんが手帳を使い始めたきっかけをお聞かせください。


手帳を本格的に使い始めたのは会社員時代、誕生日に高校時代の友人から「トラベラーズノート」をプレゼントされたことがきっかけです。


もともと学生の頃から、修学旅行の思い出を自作のノートにまとめて、友人たちに回し読みしてもらうなど、とにかく「書くこと」が大好きでした。友人もそんな私の性格を知っていて、「きっとあなたに合うよ」と選んでくれたんです。


それから約20年。編集の仕事をしていた当時は、取材のアイデアを書き留めるネタ帳や、日々のタスクを管理するTO DOリストとして、手帳は常に私の手元にありました。


――手帳を続けるなかで、あえて「潔くやめたこと」があるそうですね。


はい、「家計簿、ガントチャート、トラッカー、ウィッシュリスト、TODOリスト」の5つを手放しました。手帳の記録を振り返ってみると、家計簿やガントチャート、トラッカーは2年以上、ウィッシュリストとTO DOリストにいたっては8年ほど継続していました。もはや「生活習慣そのもの」になっていたものを、あえてやめてみたんです。


――長く続けていたものを、なぜ手放そうと思ったのでしょうか?


最初は、家計簿に数字を書き込んだり、月初めに表を手作りしてシールを貼ったりすること自体を、純粋に楽しんでいました。ところが、仕事の忙しさや体調不良で書けない日が続くと、ふとした瞬間に、真っ白なページが「できていない自分」を責めているように見えてきたのです。


たとえば、止まってしまったガントチャートを一度作り直して、その瞬間は満足するけれど、結局はまた埋まらないページを前に「来月こそは」と自分を鼓舞する。そんなループを繰り返していました。でも、無理を続けて成果があったかというと、実際はそうでもなくて……。いつの間にか、手帳を開くたびに心地よさではなく、罪悪感を覚えるようになっていたのです。



「モヤモヤノート」で、置き去りにされた自分の本音を救い上げる


▲実際のモヤモヤノート。感情のままに書き出すことが、自分を整えるファーストステップ


――手帳の習慣を「やめる」と決断できた背景には、どんな気づきがあったのでしょうか。


ちょうどその頃、並行して毎朝書いていた「モヤモヤノート」の存在が大きかったですね。かつての私は、仕事での無理が重なってミスを起こしてしまったり、周囲から叱られたりと、時間の使い方も精神的な余裕も完全に立ち行かない時期がありました。


当時は、実用書を読んだり、TODOリストを作成したりして   状況を解決しようと必死でした。でもどれだけタスクを詰め込んでも苦しさは消えなくて……。そんなある日、スキルや効率以前に「自分の本音が置き去りになっている」という事実に、ハッと気がついたんです。


――具体的には、どのようなことを書いていたのでしょうか?


実は以前、朝に思いつくまま思考を書き出す「モーニングページ」に挑戦したことがあったのですが、毎日3ページも書くのはハードルが高くて、結局続かなかったんです。


そこで、「もっと自由に、なんなら悪口を書いてもいいことにしよう」と思いつきました。「昨日のあの人のあの言い方、やっぱりおかしくない?」といった、心に刺さった棘をそのままノートに吐き出す。すると、あっという間にページが埋まって、不思議と心が軽くなるんです。


そうやって感情をすべて出し切ったあとに、今度は書いた内容に対して自分自身で「逆取材」を始めていきます。


――「逆取材」というアプローチは、編集者である大木さんならではのユニークな方法ですね。


一通り書き出してスッキリした後に、今度は赤ペンに持ち替えて、自分自身に対して「逆取材」を始めます。「なぜそう思った?」「本当はどうしたかったの?」と、客観的な編集者の視点で赤入れをしていくんです。


こうして一歩引いて自分を俯瞰する作業を繰り返していくうちに、「モヤモヤノート」は単なる感情の掃きだめではなく、自分の本当の気持ちを見つけ出すための大切なツールへと変わっていきました。


――「モヤモヤノート」を書くことで、具体的にどのような変化があったのでしょうか。


一番驚いたのは、「本当はやりたくない仕事」を大量に抱え込んでいた自分に気づいたことです。それまでは、たとえ苦手な仕事であっても「なぜやるのか」を自問することなく、ただ心を殺してすべて引き受けていました。でも、もやもやノートに「なんでこんなこと言われなきゃいけないの?」「これは私じゃなくてもいいはず」と書き殴り、赤ペンで自分に問いかけを続けるうちに、ようやく自分自身の本当の気持ちを認めることができたんです。


手帳術に対する「モヤモヤ」も同様でした。ノートに書き出してみると、結局は自分自身で自分を縛り付けていただけだったんだ、と気がつきました。書き続けることで、今の自分にとって何が「正解」で、どこまでが単なる「言い訳」なのか。その境界線がはっきりと判別できるようになり、本当に進みたい方向が見えてきました。現在は仕事の量を見直し、スケジュール管理もあえて簡潔にしていますが、その分一つひとつの仕事に集中でき、心にも大きな余裕が生まれています。



手帳術は、必要な時に「召喚」すればいい


▲「モヤモヤノート」に感情を黒ペンで吐き出した後、赤ペンで客観的に自分に「逆取材」を行う


――手放す決断を下すタイミングは、どのように判断されているのでしょうか。


以前は限界が来るまで仕事を詰め込んでいましたが、ノートを書き続けるうちに、自分の「失敗パターン」がある程度見えてきたんです。


たとえば、人間関係。ノートを書いているときは「一度、距離を置こう」と決めているのに、いざ本人を目の前にすると「やっぱり私が頑張ればいいんだ」と心が揺れ戻ってしまう。そして結局、無理が重なって爆発し、苦しくなる……。


この苦い繰り返しを何度も経験して、ようやく「一番冷静な時にノートで出した結論こそが、私にとっての正解なんだ!」と確信できるようになったのです。だから今は、ノートに向き合って直感的に「やめよう」という言葉が浮かんだ時点で、なるべく早く判断を下すように心がけています。


――手帳やルーティンとの付き合い方も、以前とは変わりましたか。


以前は「4時起きこそが正義」と自分を縛っていましたが、一度そのルールを捨てて、今はしっかり眠る生活を2〜3年続けています。「モヤモヤノート」も、毎朝必ず書くというルーティンはやめました。今は「モヤモヤを感じたら、その都度書く」というスタンスです。


無理に「書くこと」を目的化するのではなく、あくまでも自分の本心を救い上げるための場所として。ノートとの距離感がほどよくなったことで、より一層、私にとって大切なツールになっています。


ーー 一度「やめる」選択をしても、それは決して手帳術との決別ではないのですね。


そうなんです。もし一度やめても、必要になったらまた使えばいい。「過去の経験を召喚する」ような感覚で、その時の自分に合わせて、何度でも復活させていけばいいんです。


たとえば私自身、今は「マラソン大会で自己記録を更新したい」という目標があるので、一度手放したトラッカーを召喚して練習記録をつけています。それは以前のように「やらなきゃいけないから書く」のではなく、自分の夢をかなえるために、自らの意志でそのメソッドを選び取っている感覚です。



自分の「本心」を知るプロセスを楽しんでほしい

 

▲現在愛用している3冊の手帳。それぞれに役割を持たせ、自分を導く「マイ哲学書」として活用している


――最後に、手帳との付き合い方に悩む読者へメッセージをお願いします。


「手帳や日記が続かない」「何を書けばいいかわからない」と悩んでいる方は、ぜひ「心の棘(とげ)」を書き出すことから始めてみてください。一見ネガティブな感情の中にこそ、置き去りにされたあなたの「本心」がぎゅっと詰まっているからです。


現在、私は3冊のノートを併用していますが、これらは自分の思考を詰め込んだ世界に一冊の「マイ哲学書」だと思っています。世の中の正解や流行に流されず、自分の本音と誠実に向き合えば、手帳はどんな時もあなたを支える最強の味方になります。手帳術を「正しくこなす」のではなく、自分を深く知るための心地よいツールとして、ぜひ活用してみてください。   



取材・執筆/ホリミホ

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