まな(mana96) さん
※事実を再構成しています。
インターネットや書籍で手帳に関する情報収集をするとき,目にする手帳は「うまくいってるやつ」が多く,予定管理の破綻している人が何故/どのように破綻するのか観察できる機会は多くない。まぁ実際のところ,映えまくっている手帳の中にも,「やたらきれいな授業ノートを書くけどまるで勉強のできない人」のようなケースが含まれているのだとは思うが,今回扱うのはそーゆーアレではない。
私は自分が手帳オタクであることを公言していないので親しい間柄の人しかそのことを知らない。ふだんは,上司がいつまでも新年度の手帳を買わず5月の予定を書く先に困って年間カレンダーページのゴマのようなスペースにチマチマ謎の記号を書いていても,数日後に当該記号の意味を忘れて電話してきても,余計なアドバイスは控えるしキレない。別の上司と日程調整をしようとして相手がiPhoneの画面をスクロールするばかりで来週の予定がさっぱりわからずたかだか1時間のミーティングをどこに入れればいいのか即座に決められなくてもあとでメールで候補送るんでそっから選んでくださいねなんて言うだけで決して怒らずいつもしづかにわらってゐる。
さて。
古くからの友人が「俺の予定管理が終わっている。助けてくれ。」というので,一緒に新しいやり方を考えた。リモートワークが普及したことで,その気になれば僕らは他職の友人が働いているところを間近で観察できるようになった。今回の記事はそうした観察と介入の記録である。
彼の予定管理は控えめに言って機能していなかった。多方面からの指摘を受けてどうにか手帳を買うところにこぎつけたが,1カ月経っても予定管理は終わったままで相変わらず多くの人が迷惑していた。
職業人としての彼のスケジュールは高度に他律的であり,自分で決められることは多くない。呼ばれたら行かなければならないし会議を入れる場所を選べない。業務量・締切は勝手に決められ基本的に交渉の余地はない。
ただ,「自分で決めさせてもらえない」からといって「自分で状況をコントロールできない」わけではない。私の目には,彼は「コントロールしようともできるとも思っていない」ように見えた。スポーツ競技に参加するとき,ルールの範囲内で立ち回りを考えるのと同じように,枠の中でうまくやることはできるはずだ。時間割に従って漫然と時を過ごす,勉強嫌いの小学生のようなことをしている場合ではない。
手帳を「定められた予定を記録する場所」から「自分のための日報&予定を立てる際の作業スペース」に変えるところから,私たちの作戦は始まった。
観察の結果,以下の課題が発見された。
(1)所要時間の見積りが甘い
繰り返し作成している書類でも,完成までにかかる時間を把握していない。メールを5通返すのにざっくりどれだけ時間がかかるか見当がつかない。そんな感じに何もわかっていないのに,「どれだけかかる?」と問われると根拠なく「1日」などと言い,当然のように終わらない。まずは時間を測って記録するところから始めた。記録には勤怠管理用のスマホアプリが便利だった。タグで業務内容のカテゴリ分けができ,ストップウォッチのように簡単に中断を反映できるもの。
記録に基づき,業務のカテゴリ別に所要時間の表を作った。「絶好調の時」にかかった時間はあまり参考にならないので,「フツーの日」の記録をベースにした。たぶん絶好調の時を基準にするともっと出世できるんだと思うが,そういうことに興味のない人なので目標設定はゆるめ。
これまで彼の予定は「点」で認識されていたが,時間軸入りの手帳に「線」で作業予定を書けるようになった。また,締切から逆算することができるようになった。
(2)予定に余白がない
通常「働いていた」時間には,隣の席の加藤さんからお土産をもらってついでに世間話をした20分,トイレに行って戻るまでの5分,給湯室で電子レンジの順番を待っていた3分などが含まれる。所要時間が明確になったせいおかげでギチギチの予定を立てられるようになり,一日中時間に追われる感じになってしまった。(もともとケツに火がついた状態で生きている人ではあったが,周囲に漠然と急かされる焦燥感と,明確に自覚する計画の遅れとでは精神的な負担感がだいぶ違う。それに自分自身との約束は破らない方が良い。)
予定と予定の間に余白の時間を入れるようにした。
そういえば余白のことを彼がバッファと言ったときにうっかり素が出て嘲笑してしまい空気が悪くなった。ビジネス用語ダゾなどと偉そうに,しょーもねえジャーゴンに無自覚なのはみっともないと思う。
(3)終了時間を決めない
所要時間が把握されたことにより「終わったら次をやる」作戦でもそこまで悲劇的な状況に陥らなくなった。ただ,終了時間の決まっていない仕事は作業スピードが落ちてしまいがちなので,終わりは決めておく方が良いと思う。スマホの通知音が鳴ったら強制的に次の作業に移ることにした。
彼個人の問題というよりは組織が無能だと思ったが,彼の職場には会議の終了時刻をあらかじめ決める習慣がない。特定の誰かを良い気分にさせるための接待会合ならともかく,ただの打ち合わせなら時間を決めて範囲内に収めろと思う。
彼が主導できるチームの定例会議は25分,プロジェクト別会議は先に審議事項を決めて終了時刻を設定するようにした。他のチームも真似するようになったと後に聞いたので,今後職場全体で会議時間の短縮が期待できる(希望的観測)。
(4)振り返りに時間を使わない
スマホアプリのToDoリストの中には完了操作とともに項目自体の見えなくなるものがあり,振り返りに適さない。そこらの紙や付箋に書いて終わったら捨てるシステムも同じ。予定管理が苦手な人は振り返りのしやすいシステムにしておいた方が良いと思う。合理的なルーティンを構築するには振り返りが必要だし,それを維持するにもさらに改善するにも現状把握をし続けることが大事。
細かなタスクの記録に別冊ノートを用意した。スケジュール管理用の手帳と同時に開いて並置できるのが便利だった。
(5)俯瞰で見ない
特に月をまたぐとまったく予定を把握できていないことがわかった。「締切は来月」と思っていたら「今週中」だったりする。用意した時間軸入りの手帳では見開き1週間しか一覧できないので,俯瞰用に月間ダイアリーを追加した。細かな予定を書きすぎると俯瞰で見る際ノイズになるので,月間ダイアリーに書き込む内容はルールを作って厳選した。
(6)他人を使うのが下手
結局彼の予定管理が明確に破綻した直接の原因は,下の世代を使う立場になったからだったのだと思う。おそらく新人だった10年前から彼の予定管理は終わっていたのだが,誰かが「明日までですよ」「先にこれやって」と指示していたのでどうにかなっていた。そう考えると,いいかげんイイトシになって初めて破綻する(露見する)人というのも珍しくないのかもしれない。
彼は仕事を割り振った後,まじで「任せて」しまう。形の上で進捗確認をしたとしてもフィードバックをしない。間に合わないと「だってあいつのせいだし」になる。「監視してるみたいなの感じ悪いじゃん」という言い分もわからないではないが,せっかく定例で会議をやるなら「やった?」と聞けばいいと思う。
「やった?」が「早くしろや無能」に聞こえないようにするには言い方・タイミング・関係づくりが大切であることに,彼を観察していて気づいた。あと,私が手帳を開いて接近するとこちらが何も言わないうちに「まだなんだけどそれは」と言い訳事情を説明し始める私の上司たちに,もっと優しくしてもいいよなと思った。
【結論】
上記の通り,予定管理が破綻している原因は以下の6点であった。
(1)所要時間の見積りが甘い
(2)予定に余白がない
(3)終了時間を決めない
(4)振り返りに時間を使わない
(5)俯瞰で見ない
(6)他人を使うのが下手
これを踏まえ導入したシステムは以下の通りである。
(ア)手帳+ボールペンを肌身離さず持ち歩く
何が何でも手帳を持って出勤する。席を離れるときは立ち上がると同時に手に持つ。仮に社内便を出しに行くだけだとしても持って行く。新たに約束するときは覚えている気がしてもページを開き予定を確認する。約束をしたらその場で書く。
(イ)毎晩バーチカル手帳で「明日の段取り」をする
会議など自分の都合で移動できない予定は決まったらその都度書き込んでおく。それ以外の作業予定は前日の夜に時間配分を決めて手帳に記入する。各作業の終了時刻にスマホの通知が来るようにし,通知が来たら機械的に次の作業に切り替える。資料印刷や身支度など事前準備を伴う作業は,「準備の開始時刻に」スマホに通知が来るようにする。
(ウ)月間手帳で俯瞰する
毎日「今月」と「来月」の予定を確認する。長期にわたる作業は分割して自分の中での締め切りを決める。与えられた締切日のある仕事は遅くともその前日を自分の締め切りにする。
(エ)細分化したタスクをノートに書き出す
他人に割り振ったものも含め業務ごとにタスク一覧をノートに書き,定期的に見直す。完了したものとしていないものが識別できるように印をつける。他人に任せた仕事も「割り振る」で完了とせず遂行されたかどうか定期的に確認する。
必要に応じて所要時間を記録する。翌年の同じ時期に読み返せるようにノートは捨てない。「わりとガチめで6日かかった」のようなざっくり記録でも無いより全然マシ。
(オ)プロジェクト略称を決め手帳上・パソコン上で同じものを使う
ファイル名をつける際,固定のプロジェクト略称と日付を必ず入れる。整理が悪くてファイルが行方不明になっても,略称で検索をかけることですべての関連資料を呼び出せるようにした。また,これまでは最新版以外を相互に区別することができなかったが(場合によってはどれが最新版かすら不明な状態になっていたが),手帳上の情報と合わせることで「○月○日の会議で修正される前のドラフトを確認する」のような振り返りが可能になった。
うまく回るようになったらここまで厳しくやらなくてもいいよねーと最初は言っていたけれど,慣れてみたら単純な繰り返しなのでそこまで負担感もないようだ。というか,システム変更のために再度頭を使うより,一緒に決めたルールに従って自動運転で繰り返す方が楽らしい。「自分の性格知ってる人の助言は取り入れやすいわー」だそうで,力になれて何よりである。
周囲の人から彼への指示は「手帳を買え」だった。暮らしの問題解決を求めてモノを買う人は多いが(100均の便利グッズとか)買っただけで解決できるのは小さな問題だけなんだよなあということをしみじみ思う。通勤カバンの中をソリューションの墓場にしないために必要なのは知恵ですね,というところで今回の振り返りは終了。
弓道ジョガー さん
小説を読んでいるような感覚になりましたが、事実とのこと。一気に読めました🙆
まな(mana96) さん
長文にお付き合いくださりありがとうございます。元の原稿は本人に送る用に書いたのですが,他の人も読めるようにしようと言われたので,ちょっと編集して,場違いかなとは思いつつ投稿してみました。反応もらえてうれしいです!
弓道ジョガー さん
ご本人から、他の人も…と提案があったとは(・・;)!いい視点をお持ちの方ですね🙆
使いこなせないから買わない、なんていう方にもとても参考になると感じました。
場違いではないですよ!むしろ躊躇している新入りさん歓迎の実例にもなるのではないでしょうか😉
まな(mana96) さん
新入りさん歓迎,大事ですよね!友人に言われるまで私も深く考えていなかったのですが,手帳に関する投稿って「カリスマインテリアコーディネーターと考える!ワンランク上のお部屋」みたいな記事が多くて,「整理収納アドバイザーが解説!ゴミ屋敷脱出法」みたいなのが少ない気がします。時間ラボは質問機能もあったと思うので,困っている人が気軽に相談できる雰囲気になったらいいなーって思いました(*´ω`*)
弓道ジョガー さん
事務局さんも仰っていますが、まな(mana96) さんはワードセンスが光ってますね♪
カリスマインテリアコーディネーターでは救えないゴミ屋敷脱出法(^∇^)
時間〈とき〉ラボ運営事務局 さん
ワードセンスが輝いていますね!読み応えたっぷりで楽しんでしまいました!(笑)
モノだけで解決できることは確かにちっちゃなところなんですよね…!手帳を使う知恵やコツも、たくさん見つけていかなければと、改めて思いました😆
まな(mana96) さん
手帳って上手に選べば暮らしのテンプレートになりえるものだと思っていたんですけど,製品側にどれだけ工夫があっても使えない人は使えないんだなぁって実感しました。そして,+αのすてきな使い方のガイドはあちこちで公開されているんですが,終わってる人を救済してくれるようなガイドはあまり充実していないみたいです。個人的に発見が多い体験だったのでシェアしました(*´ω`*)
コメントありがとうございました!