【JAXA宇宙飛行士 金井宣茂さん】「宇宙大航海時代」を予感しながら、 ISS長期滞在ミッションを楽しみたい

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2017年12月からの第54次/第55次国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在クルーとして、日々の訓練に臨む宇宙飛行士の金井宣茂氏。日本人宇宙飛行士では少数派という医師出身者としての視点や、厳しい訓練に向き合う日常の様子を、ツイッターなどを通じて積極的に発信し、ファンとも活発な交流を図っている。長期滞在ミッションを目前に、宇宙飛行士ならではの時間感覚や、壮大な宇宙開発の将来像について聞いた。


金井宣茂(かない・のりしげ)

1976年生まれ。2002年に防衛医科大学校医学科卒業後、海上自衛隊第一術科学校等で、外科医師・潜水医官として勤務。2009年、JAXAよりISSに搭乗する日本人宇宙飛行士の候補者として選抜される。2011年7月、油井亀美也、大西卓哉とともにISS搭乗宇宙飛行士として認定される。2015年8月、ISS第54次/第55次長期滞在クルーのフライトエンジニアに任命され、2017年12月頃からISSに滞在予定。


聞き手:日本能率協会マネジメントセンター 専務取締役 張士洛



夢を思い描くまでの過程



張:海上自衛隊でお医者さんをしていたと伺っていますが、そんな金井さんがなぜ宇宙飛行士をめざそうと思ったのでしょうか。そのあたりからまずお聞かせいただけますか。


金井:宇宙飛行士になる前は、海上自衛隊のダイバーの健康を支える潜水医官でした。海底での体温保持、空気の調整など、これまでやってきた仕事を突き詰めると宇宙飛行士の医学的なサポートと似ていることを知り、宙(そら)の向こうで活動する仕事に憧れて転職を決意しました。


張:海底と宇宙の神秘は共通するのでしょうか。


金井:海の底は未知の領域で、宇宙もまさに同様です。探査はまだその端っこに手を掛けた程度で、分からないことが多く、宇宙と似たような印象を抱いています。


張:宇宙飛行士をめざした医師の体験記「中年ドクター宇宙飛行士受験奮戦記」にも影響を受けたそうですね。


金井:著者の方は結局、選抜には落ちてしまうのですが、そのモチベーションの高さは大いに刺激を受けました。まさか自分が宇宙飛行士になれるとは思っていませんでしたが、選抜を受けるだけでも、ゴールに向かって努力する過程が経験としてプラスになるのではと思い、受験を決めたのです。


張:自衛隊の医師から宇宙飛行士へのキャリアチェンジなんて、夢にも思わなかった?


金井:そうですね。もともとは医学に興味を持ち、中でも特殊な防衛医学が面白いなと勉強し始めました。でも、防衛医学、潜水医学、宇宙の世界――と目の前のことに必死で取り組むうちに新たな可能性が見えてきて、自然に道が開けてきたんです。


張:具体的に宇宙飛行士になろうと決めた時期は?


金井:2006年、自衛隊の仕事の一環で、米海軍で潜水医学の訓練を半年ほど受けました。その時に、米国では医者から宇宙飛行士になる人が多いと知り、自分もチャンスがあれば挑戦してみたいなと。


張:では、もしその時米国に行っていなかったら…。


金井:その新しい可能性に気づかなかったかもしれませんね。


高度で厳しい訓練―

失敗や不得意なことへの向き合い方



張:日本人宇宙飛行士はパイロット出身者が多いそうですね。一緒に訓練されていて、ご自身とは違うなと感じることはありましたか。


金井:日本人宇宙飛行士全般について言えば、「緻密な仕事をする」と海外から評価されています。一方で、私も含めて「宇宙3兄弟」と呼ばれているJAXAで同期の油井亀美也さん、大西卓哉さんとはキャラクターの違いを感じますね。油井さんは少し年上でお兄さん役。前職の航空自衛隊で管理職の経験もあり、全体や先を見通しながら宇宙飛行士の仕事を考えています。航空会社の副操縦士だった大西さんは、人とのコミュニケーションをとるのが非常に上手です。どんな人とコンビを組んでも相手の力を引き出し、自分の強みも生かす魅力を持っています。私は外科医なので一歩引いて物事を見ることが多く、目標に向かって猪突猛進の人が多い宇宙飛行士の中では、割と慎重派です。全体を見ながら抜けやミス、遅れがないか、後方で確認することが得意です。


張:宇宙飛行士の訓練というと、相当厳しいものだと想像しますが、長期間にわたり、モチベーションを維持するために努力したり気をつけたりしていることはありますか。


金井:訓練では非常に高度な技術を求められるので、なかなかうまくいかず、すごくへこんだり、教官から厳しい評価を受けたりすることも多いのが事実です。でも、へこたれた気持ちで自分を追い詰めないよう、しっかり休養を取り、心に余裕を持つようにしています。つらい訓練を「つらい、つらい」と考えると、気持ちが落ち込み、良いパフォーマンスが出せません。つらい訓練に耐えるその状況を不謹慎にならない程度に、いかにユーモラスに笑えるか、自身を客観視しながら楽しんでいます。


張:宇宙では何かあったら大惨事にもなりかねませんよね。日常の訓練が宇宙におけるメンタリティの鍛錬にもなっているということですね。


金井:緊急事態にいかにパニックにならずに定められた手順をこなせるかなどについては、潜水医官の訓練で技能を磨いてきたので自信があります。


張:日本ではマニュアル通り進めれば良かったことも、米国の訓練では突き放されるようなご苦労もあったとか。その折に「失敗は悪いことではない、次に失敗しないためにどうするかが大事だ」と学ばれたと伺いました。


金井:当初は「何でもできないといけない」と過度のプレッシャーを感じて、こんなので本当にやっていけるのだろうかと悩んだり落ち込んだりしたこともありました。ところがある時期に「人によって得意、不得意はある。油井さん、大西さんと同じことをやれと言われてもできないし、やる必要もないのかな」と吹っ切れたのです。私は科学実験の精密な操作など、自分の得意分野で貢献できれば良いんだと。チームでミッションに取り組むので、自分1人が目立つ活躍をしなくても、チームとしてのアウトプットがきちんと出れば、それは成功と言えるのではないかと悟りました。それ以降は肩の力を抜いて訓練に取り組むことができるようになりましたね。


張:宇宙飛行士になる前に身につけられた高度な専門領域を活かすことを意識されたのですね。宇宙に行くからにはほぼ全てのトレーニングを経験する必要がある一方で、全分野の高度な技術が必要なわけではない。それでも一通り経験するのは、宇宙という極限の環境下で、何か起こっても誰かしらが対応できる準備をするためなんですね。


金井:昔、スペースシャトルの時代は「この人が操縦担当」など一人ひとりの役割が決まっていました。しかし今は限られた人数で長期滞在のミッションをこなさなければなりません。全ての人が全ての分野で一定の技量を持っていることが求められます。ただし、個人個人で技術の凸凹があっても良くて、最低限の水準はクリアしながら、あとは凸凹の中で自分の得意分野を高めていく方が、不得意なことを克服するよりも大事なんじゃないかなと感じています。


宇宙飛行士の時間感覚



張:2009年に候補に選抜されてからいよいよ飛び立つ今年12月まで、宇宙飛行士として過ごしてきた8年間、ご自身のスケジュールや時間の管理はどうされていたのですか。


金井:宇宙飛行士の訓練スケジュールは、複数の国際的な諸関係機関によって計画的に決まります。そのため実は自分だけでは管理できず、今のこの時期はこの勉強、この訓練、と国際調整で指定されるわけです。それは宇宙ステーションに行っても同じです。


張:すると、休日だけがご自身でコントロール可能なんですね。


金井:そうですね、休日は翌日の訓練の準備をしたり、語学の勉強を少しずつ進めたりすることもあります。ですが基本的には、次の訓練までの自由時間と考えています。厳しい訓練に嫌気が差すと困るので、努めて仕事を離れて頭を空っぽにして、常にフレッシュな気持ちで日々の訓練に取り組めるよう、心がけています。割とのんびりゴロゴロするのが好きなので、何も予定がないのが理想的な過ごし方ですね。おなかがすいたらご飯を食べに行こう、気が向いたらあっちに行ってみよう、と予定を立てずに感覚で動くことも多いです。


張:そうすると、スケジュール管理をする手帳は不要ですね(笑)。


金井:宇宙飛行士になる前は、診療の予定を把握するなど、手書きの手帳が好きで使っていましたが、この職についてからは手帳を使う機会がないですね。今は宇宙飛行士の各電子スケジュールにいろんな国の人がアクセスして、予定が書きこまれていきます。


張:宇宙飛行士のスケジュール管理は全員、同じようにしているのですか。


金井:予定表のやり取りには、それぞれの国の考え方が表れていて面白いですよ。ロシアはアナログ派で、1枚の紙の予定表が毎日送られてきます。一方、米国はすべてコンピュータ上に表示されるようになっています。日本や欧州も米国式ですが、その考え方の差は、宇宙開発においても感じられます。米国は新しい技術をどんどん取り込んで、作業の効率性を重視します。ロシアは昔ながらの方法で、たとえコンピュータに不具合が起きてシャットダウンしても、印刷された1日の行動表さえあれば、作業が続行できるという実用性を重視する。興味深い違いですね。


張:日本の手帳文化にも似ているところがあって、スマホと紙の手帳を両方持っている方も多いですからね。ところで、ISSでは90分に1度、地球を周回し、24時間で昼と夜が16回訪れるとか。時差ボケのように、体内時計と合わせるのが大変そうですが、訓練では体験されましたか。


金井:昼と夜を交互に体験する訓練はありませんが、いろいろな国で訓練を受けるため、毎週あるいは隔週で各国を移動します。訓練期間中は常に時差ボケとの戦いです。自然と休み時間を多めにとったり、医師に睡眠薬を処方してもらったり、それぞれの宇宙飛行士が自分に合った工夫や対策を身につけていきます。


訓練における心構え



張:訓練で印象的なことや驚いたことはありますか。


金井:常に実物大のモックアップ(模型)を使うことですね。ISSはサッカー場と同じくらいの広さ、宇宙飛行士が活動する部屋はジャンボジェット機と同等です。米露には実物大のISSの模型があり、その内部は本物同様に作り込んであるので、実際に手を添えて機械を改修し、システムを補修する作業を訓練します。宇宙飛行士の間でよく言われるのが「本番のように訓練し、訓練のように宇宙飛行をする」こと。先輩からも、宇宙に行っても訓練した通りのものが目の前にあるので、「初めての気がしない」と聞きました。


張:それだけリアリティにこだわっているんですね。無重力の訓練はどうされているんですか。


金井:深さ15メートル、全長50メートルぐらいの巨大なプールの中にISSの実物大の模型を沈めて、水中用に改造した宇宙服を着て、水の浮力を使った訓練をしています。宇宙空間の状況と完全には一致しないですが、かなり近い形での訓練ができます。


張:さすがに宇宙に行くとなるとスケールが違いますね。宇宙飛行士の先輩からは厳しい訓練の中でも「今を楽しめ」と言われているそうですが、日頃の訓練で意識していることはありますか。


金井:そうですね……私は目の前の状況にいっぱいになって、すぐに余裕をなくしがちなのですが、訓練でも実際のミッションでも、余裕がなければ適切な判断や行動がとれません。常に余裕を持って訓練を楽しみ、困難な状況でも笑顔を絶やさず過ごしていきたいなと感じています。


張:12月の打ち上げを控えた率直な心境を教えていただけますか。


金井:もう2年以上も訓練しているので、準備万端で「いつでも来い」という自信のもとに過ごしています。とはいえ、地上で訓練できることは何でもしますが、宇宙という特殊環境、例えば無重力という1点をとってみても、トイレは大丈夫か、いつも通りご飯を食べられるか、眠れるのか……といった不安はやっぱりあります。でも、こうしたことは、同時に楽しみでもあります。私は特に医者なので、人の身体が宇宙環境にどう適応するか、実体験を通じて、ツイッターやブログなどいろんな手段で、地上の皆さんに生の声をご披露し、宇宙の面白さを感じていただけるのではないか、とワクワクしているところです。


地球時間と宇宙時間



張:宇宙開発の将来に向けてどんなことを考えられますか。


金井:今回のミッションは自分のゴールではないと常々口にしております。今回の宇宙飛行は、一人前の宇宙飛行士として仕事を始めるための最終試験です。宇宙がより身近になるような、例えば海外旅行を楽しむように宇宙旅行を楽しめる社会を実現できるよう、どうしたらJAXAや宇宙開発の役に立てるか、常に考えながら、今回のミッションを果たしていきたいです。


張:私たちもいずれ宇宙旅行に行けるぐらい、宇宙が身近な時代になっていくのでしょうか。。


金井:実は、私自身、その未来が早く来ることを仕事の目標に掲げていますし、時代の流れとしていつかは来ると思っています。それは不確定なクエスチョンではなく、時期の問題だと認識しています。今はまだ具体的に何とも言えませんが、例えば、実際に物資を運ぶレベルでは、日本には宇宙ステーション補給機「こうのとり」がありますし、米国は民間企業がNASAと契約して、無人の宇宙船を自社で打ち上げて行き来しています。民間による有人宇宙船も来年か再来年には実現できると言われていますし、宇宙開発は急ピッチで進んでいるといっていいでしょう。


張:民間人が宇宙を行き来する時代が現実しつつあるんですね。


金井:今のところは民間の有人宇宙船には、宇宙飛行士が搭乗予定ですが、民間企業が自由自在に宇宙を行き来することになれば、パイロットを自社で準備し、残りの席を宇宙旅行用に販売する可能性も出てくるでしょうね。


張:もしかしたら10年後に、金井宇宙飛行士が私たちを宇宙旅行へ引率してくれる日がくるかもしれない?


金井:そうですね(笑)。私が冗談でよく言っているのは、油井さんが船長、大西さんがパイロットを務め、私は船医として搭乗しますので、日の丸宇宙船にご搭乗いただいて、宇宙旅行をみんなで楽しめたら良いなと。


張:良いですね。私の夢の一つに加えさせていただきます(笑)。最後に、地球時間とは別に、仮に宇宙時間というものが存在するとしたら、どんなイメージを持たれますか。


金井:地球時間、宇宙時間ということを考えると、地球や宇宙の歴史の中で、我々がとういう時期にいるのか、ということを考えさせられます。少し壮大な話になりますが、地球で生命が誕生し、海の中からある時、地上に活躍の場を広げ、人類の歴史が始まる――。あるいは、大航海時代には各大陸で孤立していた人間が、故郷の大陸を離れて交流し始めるようになる。そういった長い歴史のスパンを振り返ると、今はまさに「宇宙大航海時代」ともいえるのではないでしょうか。地球上の生命が宇宙に生存権を広げつつある時期だと考えています。そのとっかかりとなるエポックメーキングな時代に我々は生きているのです。そして私は宇宙の仕事をさせていただくご縁に恵まれたんだな、とそう感じることがあります。


張:金井さんはこれからの宇宙時間を切り開いていく役割を担っているんですね。時間の感覚についても、ミッションを通じて気づかれたことを地球にお知らせいただけると有難いです。


金井:宇宙における時間という観点では、クルーのもつ時間は非常に限定的なんですね。いかに効率的に働くか、地球からの要請で決められた時間割の合間を縫って、余った時間で地上へのレポートや自分のブログを書くなど、同じ時間でアウトプットがより大きくなるよう、効率的な時間の使い方が、ISSでも大きなテーマになっており、みんな頭を悩ませています。


張:宇宙でも「働き方改革」というわけですね。しかも1人じゃなく、クルー同士が連携し、チームで時間に対する意識を高めることが求められます。


金井:そうなんです。1人で3時間かかる仕事も2人でやれば2時間で終わるかもしれない。そうすれば1時間を余分に使えますよね。クルー同士のチームワークはもちろん、地上の管制官といかにコミュニケーションをとって、効率よく仕事を進めるかは最も重要と言ってもいいかもしれません。


張:地上でも宇宙空間でも、私たちの1日は24時間と限られていますが、みんなで知恵を絞り、力を合わせたら、さらなる時間を生み出せる可能性があるということですね。「宇宙で時間を生み出すいい方法を思いついた」というご報告を、ぜひお待ちしています。


金井:ご期待いただき、ありがとうございます。ミッションの完遂に向けて精いっぱい努めて参ります。



※この記事は【時間デザイン研究所】に掲載されていた記事を転載しています。内容は掲載当時のものです。


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